企業でAIの導入が進む一方、現場で十分に活用されないケースもあります。AIが使われない背景には、操作方法への不安や業務との相性、利用ルールの不明確さなど、さまざまな原因が考えられます。
利用ログからは利用状況を把握できますが、使わない理由までは分かりません。
本記事では、利用ログの分析と従業員へのヒアリングを組み合わせ、AIが使われない原因を特定し、改善につなげる具体的な調査方法を解説します。
AIを導入しても現場で利用が進まないのはなぜか?

企業がAIツールを導入しても、すべての従業員が継続的に利用するとは限りません。導入環境が整っていても、業務での使い方が分からない、効果を実感できないなどの理由で、利用が進まない場合があります。
AIの導入率と実際の業務利用率は異なる
AIの導入状況を評価する際は、アカウントの発行数だけでなく、実際の利用状況を確認する必要があります。
| 指標 |
確認する内容 |
| アカウント発行数 |
AIを利用できる従業員の数 |
| 初回利用者数 |
実際にAIを使い始めた人数 |
| 利用率 |
対象者のうちAIを利用した割合 |
| 利用頻度 |
一定期間内にAIを使った回数や日数 |
| 継続利用率 |
一定期間後もAIを利用している割合 |
例えば、アカウントが発行されていても、一度も利用していない従業員がいる場合、導入だけでは活用が進んでいないことが分かります。
ただし、AIを使う必要がない業務もあるため、職種や利用機会の違いを考慮することが重要です。
利用率だけでは現場の課題を把握できない
AIの利用率が低くても、その原因が従業員のスキル不足とは限りません。利用ルールが不明確な場合や、業務に適した使い方が見つかっていない場合もあります。
また、利用頻度が高くても、回答の修正や確認に時間がかかり、業務効率化につながっていない可能性があります。
そのため、AIの利用状況を数値で把握するとともに、現場で使われない理由や利用時の課題を確認することが必要です。
現場がAIを使わない7つの理由
AIが現場で使われない理由は、従業員の知識やスキル不足だけではありません。業務との相性、回答の正確性への不安、利用環境、組織の支援体制など、複数の要因が関係している場合があります。
調査では、AIを利用しない原因を次の7つに分類すると、課題を整理しやすくなります。
| AIを使わない理由 |
現場で起こり得る状況 |
| ① 業務との適合性が低い |
AIを活用できる作業が見つからない、既存の方法で十分に対応できる |
| ② 操作方法が分からない |
質問の仕方や機能を理解できず、利用を始められない |
| ③ 効果を実感できない |
期待した回答が得られず、自分で作業した方が早いと感じる |
| ④ 回答の正確性に不安がある |
誤情報や回答のばらつきを懸念し、業務での利用を避ける |
| ⑤ セキュリティ面が不安 |
機密情報や顧客情報を入力してよいか判断できない |
| ⑥ 利用環境が整っていない |
アカウント、アクセス権限、利用ルールなどに制約がある |
| ⑦ 組織的な支援が不足している |
上司の理解や相談先、具体的な活用事例が不足している |
これらの理由は、従業員個人の課題、業務上の課題、システム環境の課題、組織運営の課題に分けて考えることができます。例えば、操作方法を理解していても、社内の利用ルールが不明確であれば、AIの利用を控える可能性があります。
また、AIを利用しないことが必ずしも問題とは限りません。正確性が特に求められる業務や、AIを使用するメリットが小さい作業では、従来の方法が適している場合もあります。
重要なのは、利用しない理由を一律に判断せず、実際の業務内容や利用環境と照らし合わせて確認することです。そのためには、調査目的を明確にした上で、利用ログと現場の声を収集する必要があります。
AI利用実態を調査する前に決めるべき4つの項目
AIが使われない原因を正確に把握するには、利用ログの収集やヒアリングを始める前に、調査の目的と対象範囲を明確にする必要があります。
目的が曖昧なまま調査すると、利用回数などの数値を集めても、改善すべき課題を判断しにくくなります。まずは、次の4つの項目を整理しましょう。
調査を始める前に確認する4つの項目

| 項目 |
確認する内容 |
| ① 調査目的 |
利用率の低さ、継続利用の停滞、業務成果が出ない原因など、解決したい課題を決める |
| ② 対象業務・ツール |
調査するAIツールと、文章作成・情報整理などの対象業務を明確にする |
| ③ 調査対象者 |
対象部署や職種を決め、AIの利用権限と業務上の利用機会を確認する |
| ④ 調査期間・取得データ |
ログの分析期間、必要な指標、ヒアリングの実施方法を決める |
調査対象と期間の設定例
例えば、社内で導入した生成AIの利用状況を確認する場合、以下のように調査条件を設定できます。
| 設定項目 |
設定例 |
| 調査対象 |
AIツールの利用権限を持つ従業員 |
| 対象部署 |
営業・人事・管理部門 |
| ログ分析期間 |
直近4週間 |
| ヒアリング対象 |
未利用者・低頻度利用者・継続利用者 |
| 調査目的 |
利用を妨げる原因と改善すべき課題の特定 |
この設定は一例であり、実際の調査期間は業務の頻度や繁忙期を考慮して調整します。月に数回しか発生しない業務では、短期間のログだけでは利用実態を十分に把握できない場合があります。
また、調査に必要なデータを事前に整理し、収集目的や利用範囲を明確にすることも重要です。調査条件を統一することで、部署や利用者グループごとの違いを比較しやすくなります。
AI利用ログから何を分析すればよいのか?
AI利用ログは、従業員がどの程度AIを利用しているかを把握するためのデータです。利用者数や利用頻度、継続状況を分析することで、活用が進んでいない部署や、利用が途中で止まっている傾向を確認できます。
ただし、ログから取得できる情報はAIツールによって異なります。まずは利用可能なデータを確認し、調査目的に必要な指標を選ぶことが重要です。
AI利用状況を把握する6つの指標
| 分析指標 |
確認する内容 |
| ① 利用者数 |
一定期間内にAIを利用した従業員の人数 |
| ② 利用率 |
対象者のうち、実際にAIを利用した人の割合 |
| ③ 利用頻度 |
利用回数や利用日数から分かる使用頻度 |
| ④ 継続利用率 |
初回利用後も一定期間にわたって利用している人の割合 |
| ⑤ 部署別利用状況 |
部署や職種による利用傾向の違い |
| ⑥ 機能別利用状況 |
文章生成や要約など、利用されている機能の傾向 |
利用率を計算する場合は、対象期間内にAIを利用した人数を、調査対象となる人数で割って求めます。ただし、利用権限のない従業員や業務上の利用機会がない従業員を含めると、実態より低く見える可能性があるため、集計対象を明確にする必要があります。
また、継続利用率は、初回利用者のうち次の期間にも利用した人の割合など、基準を統一して比較することが重要です。
ログ分析で確認すべき3つのパターン
利用ログを分析する際は、全体の利用率だけでなく、利用行動の変化や部署ごとの差にも注目します。
| 利用パターン |
調査で確認したいこと |
| 初回利用後に停止 |
期待した効果が得られなかったのか、操作上の問題があったのか |
| 特定の部署で利用率が低い |
業務内容、利用ルール、支援体制に違いがあるか |
| 利用頻度が伸びない |
利用機会が限られているのか、継続利用を妨げる課題があるのか |
例えば、初回利用者が多い一方で継続利用者が少ない場合、最初の利用体験や業務への適合性に課題がある可能性が考えられます。ただし、ログだけで原因を断定することはできません。
利用ログだけでは判断できないこと
利用ログからは、AIを使った事実や利用頻度を確認できますが、使わなかった理由や、回答に対する満足度までは十分に把握できません。
また、利用回数が多いことと、業務効率化が実現していることは同じではありません。AIの回答を何度も修正している場合や、確認作業に時間がかかっている場合もあるためです。
そのため、ログ分析で特徴的な利用傾向を見つけた後は、対象となる従業員へのヒアリングを行い、実際の業務状況や利用時の課題を確認する必要があります。
利用ログをもとにヒアリング対象者を選ぶ方法
AIを使わない理由を調べる際は、ヒアリング対象者の選び方が重要です。利用率が低い従業員だけに話を聞くと、継続利用につながる条件や、部署ごとの業務特性を十分に把握できない場合があります。
利用ログをもとに従業員をグループ分けし、それぞれの利用状況に応じた質問を設定することで、課題を比較しやすくなります。
利用状況に応じて従業員を4つに分類する
| グループ |
主な確認事項 |
| ① 未利用者 |
AIを利用していない理由、業務上の必要性、利用開始を妨げる要因 |
| ② 初回利用のみ |
最初に利用した目的、期待した結果、継続しなかった理由 |
| ③ 低頻度利用者 |
利用する業務、使用頻度が少ない理由、利用時の不便さ |
| ④ 継続利用者 |
活用している業務、利用を続ける理由、効果を感じる場面 |
例えば、未利用者にはAIを使う必要性を感じているかを確認し、初回利用のみの従業員には、利用を続けなかった具体的な出来事を聞きます。一方、継続利用者には、どの業務で役立っているかを確認します。
こうした比較により、AIの利用を妨げる要因だけでなく、利用が定着するための条件も整理できます。
部署や職種による偏りを防ぐ
ヒアリング対象者を選ぶ際は、利用頻度だけでなく、部署、職種、担当業務も考慮します。例えば、営業部門と管理部門ではAIを活用できる業務が異なるため、同じ利用基準だけで比較すると、実態を正しく評価できない可能性があります。
また、上司が推薦した従業員だけを対象にすると、特定の意見に偏るおそれがあります。可能な範囲で異なる利用状況や業務を持つ従業員を選び、幅広い意見を収集することが重要です。
なお、ログの分析結果から個人の利用状況を確認する場合は、調査目的や情報の取り扱いを明確にし、必要な範囲で実施します。ヒアリングでは従業員が安心して意見を伝えられる環境を整えることも大切です。
AIを使わない理由を聞くヒアリングの進め方
AIの利用ログから利用状況を把握した後は、従業員へのヒアリングを実施します。ヒアリングの目的は、AIを利用しない理由を一方的に確認することではなく、実際の業務でどのような課題が発生しているかを明らかにすることです。
利用経験や担当業務によって課題は異なるため、共通の質問を用意しながら、具体的な業務場面についても確認します。
ヒアリングで使える10の質問例
ヒアリングでは、利用経験、業務との適合性、操作上の問題、不安、必要な支援などを確認します。以下の質問を基本として、回答内容に応じて詳しく聞くことが効果的です。
| No. |
ヒアリングの質問例 |
| 1 |
現在の業務でAIを利用していますか? |
| 2 |
AIを利用していない、または利用をやめた理由は何ですか? |
| 3 |
現在の業務でAIを活用できそうな作業はありますか? |
| 4 |
AIの操作や質問の仕方で分からないことはありますか? |
| 5 |
AIの利用によって作業時間が短縮された経験はありますか? |
| 6 |
AIの回答の正確性について不安を感じることはありますか? |
| 7 |
AIに入力してよい情報の範囲を理解していますか? |
| 8 |
AIを使おうとして、途中で利用をやめたことはありますか? |
| 9 |
どのような研修や支援があれば利用しやすくなりますか? |
| 10 |
今後、AIを活用してみたい業務はありますか? |
すべての質問を機械的に聞く必要はありません。未利用者には利用しない背景を中心に確認し、継続利用者には具体的な活用方法や、利用を続けられる理由を詳しく聞きます。
回答を引き出すための3つの注意点

| 注意点 |
具体的な対応 |
| ① 責めるような質問を避ける |
利用しないことを問題視せず、業務上の状況を中立的に確認する |
| ② 具体的な経験を聞く |
最後に利用した場面や、困った作業について詳しく確認する |
| ③ 安心して回答できる環境を整える |
調査目的や回答の取り扱いを説明し、人事評価への利用と混同されないようにする |
例えば、「なぜAIを使わないのですか?」と聞くよりも、「AIを使おうとしたとき、困ったことはありましたか?」と質問する方が、具体的な経験を確認しやすくなります。
また、回答を誘導しないことも重要です。AIの活用を前提とした質問ばかりでは、AIを使わない方が適切な業務や、既存の方法に利点があることを見落とす可能性があります。
ヒアリング結果の記録方法
ヒアリング結果は、回答を記録するだけでなく、具体的な業務場面と原因の仮説を分けて整理します。従業員の発言と調査担当者の解釈を区別することで、後から内容を検証しやすくなります。
| 記録項目 |
記録内容の例 |
| 発言内容 |
AIの回答を確認する作業が負担になっている |
| 具体的な業務場面 |
社内資料の作成時に回答を修正している |
| 原因の仮説 |
回答品質や確認手順に課題がある可能性 |
| 追加確認事項 |
修正内容や確認に必要な作業を調べる |
なお、表の回答は記録方法を示すための仮想例です。実際の調査では、本人の発言を正確に記録し、個人が特定される情報の取り扱いにも配慮します。
こうして整理したヒアリング結果を利用ログと照合することで、AIが使われない原因をより具体的に分析できます。
利用ログとヒアリング結果をつなぐ分析方法
AIが使われない原因を特定するには、利用ログで確認した行動と、ヒアリングで得られた回答を照合することが重要です。ログは利用状況を示しますが、その背景にある業務上の課題や従業員の考えまでは十分に把握できません。
一方、ヒアリングだけでは、回答内容が実際の利用傾向と一致しているか判断しにくい場合があります。両方の情報を組み合わせることで、改善すべき課題を具体的に整理できます。
利用ログとヒアリング結果を照合する
まず、利用ログから特徴的な傾向を抽出し、該当する部署や利用者グループのヒアリング結果を確認します。その上で、数値と回答内容の両方から考えられる原因を整理します。
| 利用ログの状況 |
ヒアリング結果の例 |
考えられる原因 |
| 初回利用後に停止 |
期待した回答が得られなかった |
用途設定や回答品質の課題 |
| 営業部門の利用率が低い |
顧客情報を入力できるか分からない |
利用ルールの不明確さ |
| 特定機能の利用が少ない |
その機能を知らなかった |
機能の周知や教育の不足 |
| 利用頻度は高い |
出力内容の修正に時間がかかる |
回答品質や業務適合性の課題 |
| 管理部門で利用が進まない |
対象業務に使える場面が少ない |
業務特性との不一致 |
この表は分析方法を示す仮想例であり、実際の企業調査結果ではありません。ログと回答の組み合わせから原因の候補を見つけ、追加確認によって絞り込むことが目的です。
利用されない原因を特定する3つのステップ
| ステップ |
分析内容 |
| ① 利用傾向を抽出する |
未利用者や継続利用者の割合、部署ごとの差などを確認する |
| ② 原因の仮説を立てる |
ヒアリング結果を分類し、利用を妨げる要因を整理する |
| ③ 仮説を検証する |
業務内容や利用環境を追加確認し、原因として妥当か判断する |
ヒアリング結果を整理する際は、「操作方法」「業務との相性」「回答品質」「利用ルール」「組織の支援」など、共通する課題ごとに分類すると比較しやすくなります。
例えば、利用頻度が低い部署で「操作方法が分からない」という回答が複数確認された場合、操作教育の不足が原因の候補になります。ただし、担当業務にAIの利用機会があるかも併せて確認する必要があります。
分析結果を原因と断定しないことが重要
利用ログとヒアリング結果が一致しても、それだけで因果関係が証明されるわけではありません。例えば、研修を受けていない従業員の利用率が低くても、研修不足だけが原因とは限りません。業務内容や利用機会の違いが影響している可能性もあります。
また、個人単位でログと回答を結びつける必要がない場合は、部署や利用者グループごとの集計結果を使う方法もあります。調査目的に応じて、必要な範囲でデータを扱うことが大切です。
最終的には、ログで確認した事実、従業員の発言、調査担当者が立てた仮説を区別して記録します。これにより、根拠を確認しながら改善策を検討できるようになります。
AIを導入したいものの、「何から始めるべきか」「どの業務に活用すべきか」が明確になっていませんか?
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利用ログとヒアリング結果をつなぐ分析方法
AIが使われない原因を特定するには、利用ログで確認した行動と、ヒアリングで得られた回答を照合することが重要です。ログは利用状況を示しますが、その背景にある業務上の課題や従業員の考えまでは十分に把握できません。
一方、ヒアリングだけでは、回答内容が実際の利用傾向と一致しているか判断しにくい場合があります。両方の情報を組み合わせることで、改善すべき課題を具体的に整理できます。
利用ログとヒアリング結果を照合する
まず、利用ログから特徴的な傾向を抽出し、該当する部署や利用者グループのヒアリング結果を確認します。その上で、数値と回答内容の両方から考えられる原因を整理します。
| 利用ログの状況 |
ヒアリング結果の例 |
考えられる原因 |
| 初回利用後に停止 |
期待した回答が得られなかった |
用途設定や回答品質の課題 |
| 営業部門の利用率が低い |
顧客情報を入力できるか分からない |
利用ルールの不明確さ |
| 特定機能の利用が少ない |
その機能を知らなかった |
機能の周知や教育の不足 |
| 利用頻度は高い |
出力内容の修正に時間がかかる |
回答品質や業務適合性の課題 |
| 管理部門で利用が進まない |
対象業務に使える場面が少ない |
業務特性との不一致 |
この表は分析方法を示す仮想例であり、実際の企業調査結果ではありません。ログと回答の組み合わせから原因の候補を見つけ、追加確認によって絞り込むことが目的です。
利用されない原因を特定する3つのステップ

| ステップ |
分析内容 |
| ① 利用傾向を抽出する |
未利用者や継続利用者の割合、部署ごとの差などを確認する |
| ② 原因の仮説を立てる |
ヒアリング結果を分類し、利用を妨げる要因を整理する |
| ③ 仮説を検証する |
業務内容や利用環境を追加確認し、原因として妥当か判断する |
ヒアリング結果を整理する際は、「操作方法」「業務との相性」「回答品質」「利用ルール」「組織の支援」など、共通する課題ごとに分類すると比較しやすくなります。
例えば、利用頻度が低い部署で「操作方法が分からない」という回答が複数確認された場合、操作教育の不足が原因の候補になります。ただし、担当業務にAIの利用機会があるかも併せて確認する必要があります。
分析結果を原因と断定しないことが重要
利用ログとヒアリング結果が一致しても、それだけで因果関係が証明されるわけではありません。例えば、研修を受けていない従業員の利用率が低くても、研修不足だけが原因とは限りません。業務内容や利用機会の違いが影響している可能性もあります。
また、個人単位でログと回答を結びつける必要がない場合は、部署や利用者グループごとの集計結果を使う方法もあります。調査目的に応じて、必要な範囲でデータを扱うことが大切です。
最終的には、ログで確認した事実、従業員の発言、調査担当者が立てた仮説を区別して記録します。これにより、根拠を確認しながら改善策を検討できるようになります。
AI利用実態調査の具体例|利用率が低い部署を分析する
利用ログとヒアリングを組み合わせることで、AIが使われない原因をどのように調査できるのでしょうか。ここでは、営業部門でAIの利用が進んでいない状況を想定し、調査から改善策の検討までの流れを紹介します。
なお、以下は調査方法を説明するための仮想ケースであり、実在する企業の調査結果ではありません。
営業部門でAI利用率が低いケース
ある企業が、営業資料の作成や情報整理などに活用する目的で生成AIを導入したとします。しかし、利用ログを確認したところ、営業部門の利用率が他部署より低い傾向にありました。
そこで、直近4週間の利用ログを分析し、未利用者と低頻度利用者にヒアリングを実施することにしました。
| 調査項目 |
確認する内容 |
| 利用ログ |
営業部門の利用率、利用頻度、継続状況 |
| 対象業務 |
営業資料作成、情報整理、文章作成 |
| ヒアリング対象 |
AIを利用していない従業員と低頻度利用者 |
| 調査目的 |
営業部門でAIの利用が進まない原因の特定 |
ログとヒアリングから改善策を検討する
ヒアリングで、顧客情報の取り扱いが分からない、営業資料への使い方が分からない、AIの回答確認に時間がかかる、といった意見が得られたと仮定します。
これらの回答をもとに、利用上の課題と改善策の候補を整理します。
| ヒアリングで確認した課題 |
改善策の候補 |
| 顧客情報を入力できるか分からない |
入力可能な情報と禁止事項を明確にする |
| 営業資料への活用方法が分からない |
営業業務に対応した具体的な活用例を共有する |
| AIの回答確認に時間がかかる |
回答の確認項目や作業手順を整理する |
例えば、顧客情報の入力に不安がある場合は、社内のセキュリティ方針を確認し、利用可能な情報の範囲を具体的に示す方法が考えられます。また、活用方法が分からない場合には、営業資料の構成案作成など、業務に合った使い方を検討できます。
ただし、ヒアリングで挙がった課題が、利用率の低さにどの程度影響しているかは追加確認が必要です。対象業務でAIを使う必要性や、既存の作業方法との違いも確認します。
改善策を実施した後は、利用率や継続状況に加え、営業資料の作成時間や確認作業の負担などを比較します。このように、調査結果を具体的な改善と効果検証につなげることが重要です。
調査結果をAI活用の改善策につなげる方法
利用ログとヒアリングから課題を把握した後は、その原因に合った改善策を検討します。AIの利用率が低いからといって、すべての部署で同じ研修や利用促進策を実施することが適切とは限りません。
例えば、操作方法が分からない場合は教育が役立ちますが、利用ルールが不明確な場合には、社内方針の整備が必要です。調査で確認した課題と対策を対応させることが重要です。
利用を妨げる原因別に改善策を整理する
| 特定した原因 |
改善策 |
| 操作方法が分からない |
業務別研修や具体的な活用例を提供する |
| 活用できる業務が不明 |
業務を棚卸しし、AIの適用候補を整理する |
| 効果を実感できない |
従来の作業方法と時間・成果品質を比較する |
| 回答の正確性に不安がある |
確認項目や人によるチェック手順を整備する |
| 情報漏えいが不安 |
入力可能な情報と禁止事項を明確にする |
| 利用環境に問題がある |
アクセス権限や操作手順、利用導線を見直す |
| 組織の支援が不足している |
相談窓口や管理職による支援体制を整える |
改善策を決める際は、従業員の意見だけでなく、実際の業務手順や既存システムとの関係も確認します。操作方法の研修を実施しても、対象業務にAIを使う必要性がなければ、継続利用にはつながらない可能性があります。
改善施策の優先順位を決める
複数の課題が見つかった場合は、すべてを同時に解決しようとせず、影響の大きさや実施のしやすさを考慮して優先順位を決めます。
| 判断基準 |
確認する内容 |
| 影響範囲 |
課題が発生している部署や業務の範囲 |
| 期待される効果 |
作業時間の短縮や品質改善につながる可能性 |
| 実施の負担 |
改善に必要な費用、時間、担当者の工数 |
| リスクの重要性 |
情報管理や回答品質に関する問題の重大さ |
特に、機密情報の取り扱いや不適切な利用に関する問題は、利用率の向上とは別に、安全性の観点から優先的に対応する必要があります。
改善施策を実施する際は、担当者、対象部署、実施内容、確認する指標を明確にします。また、最初から全社に展開するのではなく、対象業務を限定して効果を確認する方法も考えられます。
AI活用の目的は、利用回数を増やすこと自体ではありません。現場の課題を解消し、業務の効率や成果品質を改善できるかという視点で施策を選ぶことが重要です。
AI活用の改善効果をどのように検証するか?
AIの利用を妨げる課題に対して改善策を実施した後は、実際に効果があったかを確認する必要があります。研修や利用ルールの整備を行っても、利用状況や業務成果が変わっていなければ、追加の改善が必要です。
効果検証では、AIの利用率だけでなく、継続利用の状況や業務時間、成果物の品質などを組み合わせて評価します。
改善前後で比較すべき5つの指標

| 評価指標 |
確認する内容 |
| ① 利用率 |
改善前後でAIを利用する従業員の割合が変化したか |
| ② 継続利用率 |
初回利用後も継続してAIが使われているか |
| ③ 業務時間 |
対象業務にかかる作業時間や確認時間が変化したか |
| ④ 成果物の品質 |
修正件数や確認結果などに改善が見られるか |
| ⑤ 従業員の評価 |
使いやすさ、安心感、業務への有用性に変化があるか |
例えば、操作研修の実施後に利用率が上昇した場合でも、それだけで業務改善が実現したとは判断できません。資料作成などの対象業務について、作業時間や修正負担がどのように変化したかを確認する必要があります。
また、評価指標は改善前後で同じ定義を使用し、可能な範囲で同じ部署や業務を比較することが重要です。
短期的な利用増加と継続的な定着を区別する
研修や社内周知の直後は、一時的にAIの利用回数が増える場合があります。しかし、その後に利用が減少する可能性もあるため、一定期間を空けて継続状況を確認します。
| 確認時期 |
主な確認事項 |
| 改善前 |
利用状況と業務上の課題を記録する |
| 改善直後 |
利用行動や従業員の評価に変化があるか確認する |
| 一定期間経過後 |
利用の継続状況と業務成果を再確認する |
なお、利用率や業務時間の変化には、繁忙期、担当業務の変更、対象者の増減などが影響する場合があります。改善前後の数値だけで施策の効果を断定せず、業務環境の変化も併せて確認します。
効果が確認できない場合は、改善策が原因に合っていたかを見直し、必要に応じて追加のヒアリングを行います。このように、調査、改善、検証を繰り返すことで、現場に適したAI活用を進められます。
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AI利用ログとヒアリングで注意すべき情報管理・プライバシー
AIの利用実態を調査する際は、従業員のプライバシーや情報管理に十分配慮する必要があります。利用ログには、利用日時やアカウント情報など、個人の行動に関する情報が含まれる場合があります。
調査の目的は、従業員の利用状況を監視することではなく、AI活用を妨げる課題を把握し、業務環境を改善することです。必要な情報を適切な範囲で収集し、利用目的を明確にすることが重要です。
従業員の監視と受け取られない調査設計
従業員が調査を監視や人事評価のためのものと受け取ると、ヒアリングで率直な意見を伝えにくくなる可能性があります。そのため、調査目的や取得する情報、分析結果の利用方法を事前に説明することが大切です。
| 注意点 |
具体的な対応 |
| ① 調査目的の明確化 |
何を調べ、結果をどのような改善に活用するか説明する |
| ② 取得情報の限定 |
調査に必要な利用頻度や利用状況などの情報を選ぶ |
| ③ 集計データの活用 |
可能な範囲で部署や利用者グループ単位の分析を行う |
| ④ 評価目的との区別 |
利用回数だけで従業員の能力や勤務態度を判断しない |
例えば、部署ごとの利用傾向を把握することが目的であれば、個人別の詳細な履歴を分析する必要がない場合もあります。ただし、少人数の部署では、集計結果から個人が推測される可能性があるため注意が必要です。
ログやヒアリング記録の取り扱い
利用ログやヒアリング記録を管理する際は、閲覧権限や保存期間を決め、目的外の利用を防ぐ必要があります。特に、AIへの入力内容には業務上の機密情報や個人情報が含まれる可能性があるため、必要性を確認せずに収集しないことが重要です。
| 管理項目 |
主な対策 |
| 個人情報の収集 |
調査に必要な情報だけを取得する |
| アクセス権限 |
調査担当者など必要な人に限定する |
| 保存期間 |
利用目的や社内規程に応じて管理する |
| ヒアリング記録 |
個人を特定できる情報の記載や共有範囲に注意する |
| 調査結果の共有 |
個人の発言を必要以上に公開せず、課題を中心に報告する |
ヒアリングでは、回答の利用目的や共有範囲を説明し、従業員が安心して意見を伝えられるようにします。匿名での回答を認める場合も、回答内容から個人が推測されないよう配慮する必要があります。
また、個人情報保護委員会は、従業者に対するモニタリングについて、目的の事前特定や従業者への明示などの考え方を示しています。実際の調査では、個人情報保護法や社内規程、対象となる情報の性質を確認し、適切な管理方法を検討することが重要です。
AI利用実態調査では、必要なデータを適切に管理しながら、現場の課題を把握することが求められます。従業員の信頼を損なわない調査設計が、正確な情報収集と継続的な改善につながります。
AI利用実態調査でよくある4つの失敗
AIの利用実態調査では、データを収集するだけでなく、分析方法や調査後の対応にも注意が必要です。調査の進め方によっては、利用が進まない原因を十分に把握できず、適切な改善につながらない場合があります。
特に注意したいのは、次の4つの失敗です。
| よくある失敗 |
問題点と対策 |
| ① 利用率だけで評価する |
利用回数だけでは業務成果を判断できないため、作業時間や品質も確認する |
| ② アンケートだけで判断する |
回答と実際の利用状況が異なる可能性があるため、利用ログと照合する |
| ③ 未利用者だけに聞く |
継続利用者にもヒアリングし、活用できている条件を比較する |
| ④ 調査後に改善しない |
課題を整理するだけで終わらず、改善施策と効果検証まで実施する |
例えば、利用率が低いという結果だけをもとに全社員向けの研修を実施しても、実際の原因が利用ルールや業務との相性にある場合、課題は解消されない可能性があります。
また、ヒアリングで得られた意見をそのまま全従業員の共通課題と判断することも避ける必要があります。部署や職種による違いを確認し、利用ログなどの客観的な情報と組み合わせて評価することが重要です。
調査後は、改善施策の担当者、実施期限、評価指標を明確にします。調査、改善、効果検証までを一連の取り組みとして進めることで、AI活用の課題を継続的に見直せます。
AIを導入したいものの、「何から始めるべきか」「どの業務に活用すべきか」が明確になっていませんか?
AI導入で成果を出すためには、ツール選びよりも先に、自社の経営課題や業務課題を整理し、AI活用の優先順位を決めることが重要です。
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まとめ|AIを使わない理由はログと現場の声から明らかにする

AIを導入しても現場で利用が進まない背景には、操作方法への不安、業務との相性、回答の正確性、利用ルールの不明確さなど、さまざまな原因があります。
利用ログを分析することで、利用率や利用頻度、継続状況を把握できます。一方、AIを使わない具体的な理由を知るには、従業員へのヒアリングが欠かせません。
両方の情報を照合することで、現場の課題を整理し、研修や利用ルールの整備、業務に合った活用方法の検討など、具体的な改善策につなげられます。
重要なのは、AIの利用回数を増やすことだけを目的にしないことです。現場で使われない原因を把握し、業務効率や成果品質の改善につながるかを継続的に検証することが、AI活用の定着に向けた重要な取り組みとなります。
SUPERVISED BY
平出 大輔
株式会社Start Challenge Consulting
代表取締役CEO/AI・DXコンサルタント
約10年間、外資系コンサルティングファームにて企業のDX推進・業務改革・AI活用支援など数多くのプロジェクトを担当。これまで培った知見をもとに株式会社Start Challenge Consultingを創業し、生成AI、データ活用、DX推進を軸とした経営・業務改革支援を行っています。
「仕事=生きがい・楽しさ」という価値観を大切にし、クライアントと同じ目線で未来を創る真のパートナーとして、日本を代表するコンサルティングファームを目指しています。